あまり鳴て 石になるなよ 猫の恋 鶯や 懐の子も 口をあく 梅が香に 障子ひらけば 月夜かな 陽炎に さらさら雨の かかりけり 門松や ひとりし聞は 夜の雨 亀の甲 並べて東風に 吹れけり 蛙鳴き 鶏なき東 しらみけり 雀の子 そこのけそこのけ 御馬が通る 大名を 馬からおろす 桜かな 手枕や 蝶は毎日 来てくれる なの花も 猫の通ひぢ 吹とぢよ 初午に 無官の狐 鳴にけり 初夢に 古郷を見て 涙かな 春風に 箸を掴んで 寝る子かな 春雨に 大欠伸する 美人かな 春風や 牛に引かれて 善光寺 振向ば はや美女過る 柳かな 蓬莱に 南無南無といふ 童かな やせ蛙 負けるな一茶 ここにあり 夕ざくら けふも昔に 成にけり 夕燕 我には翌の あてはなき 夕不二に 尻を並べて なく蛙 雪とけて 村一ぱいの 子どもかな 行春の 町やかさ売 すだれ売 我と来て 遊べや親の ない雀 青梅に 手をかけて寝る 蛙かな 青すだれ 白衣の美人 通ふ見ゆ 暑き夜や 子に踏せたる 足のうら いざいなん 江戸は凉みも むつかしき うつくしや 雲一つなき 土用空 海の月 扇かぶつて 寝たりけり 雷の ごろつく中を 行々し 子ども等が 團十郎する 団扇かな 五月雨や 胸につかへる ちちぶ山 涼しさや 半月うごく 溜り水 凉しさや 山から見える 大座敷 雀子が ざくざく浴る 甘茶かな 蝉なくや 我家も石に なるやうに 夏の雲 朝からだるう 見えにけり 夏山の 洗ふたやうな 日の出かな 夏山や 一人きげんの 女郎花 夏の夜に 風呂敷かぶる 旅寝かな 寝せつけし 子のせんたくや 夏の月 芭蕉翁の 臑をかぢつて 夕凉 短夜や くねり盛の 女郎花 水風呂へ 流し込だる 清水かな やれ打な 蝿が手をすり 足をする 夕されば 蛍の花の かさいかな 夕立や けろりと立し 女郎花 夕月の 友となりぬる 蚊やりかな 青空に 指で字を書く 秋の暮 秋風や あれも昔の 美少年 秋の夜や 隣を始 しらぬ人 秋の夜や 旅の男の 針仕事 朝顔や したたかぬれし 通り雨 うしろから 秋風吹や もどり足 馬の子の 故郷はなるる 秋の雨 送り火や 今に我等も あの通り さぼてんの 鮫肌見れば 夜寒かな たまに来た 古郷の月は 曇りけり 七夕や 涼しき上に 湯につかる 人並に 畳の上の 月見かな 日の暮の 背中淋しき 紅葉かな 名月や 家より出て 家に入 山は虹 いまだに湖水は 野分かな 夕月や 涼がてらの 墓参 名月や 膳に這よる 子があらば 名月を とつてくれろと 泣子かな はつ雁も 泊るや恋の 軽井沢 初茸を 握りつぶして 笑ふ子よ 膝の子や 線香花火に 手をたたく 鬼灯の 口つきを姉が 指南かな 夕日影 町一ぱいの とんぼかな 世につれて 花火の玉も 大きいぞ 我星は どこに旅寝や 天の川 霰ちれ くくり枕を 負ふ子ども うつくしや 年暮きりし 夜の空 うまそうな 雪がふうはり ふはりかな 寒月や 喰つきさうな 鬼瓦 けしからぬ 月夜となりし みぞれかな けろけろと 師走月よの 榎かな 木がらしの 吹留りけり 鳩に人 木がらしや から呼びされし 按摩坊 これがまあ 終のすみかか 雪五尺 来る人が 道つけるなり 門の雪 凩や 常灯明の しんかんと さくさくと 氷かみつる 茶漬かな さはつたら 手も切やせん 冬木立 外は雪 内は煤ふる 栖かな 大根引 大根で道を 教へけり ともかくも あなた任せの としの暮 納豆の 糸引張て 遊びけり 猫の子が ちよいと押へる おち葉かな 人並に 正月を待つ 灯影かな はつ雪や それは世にある 人のこと 冬の雨 火箸をもして 遊びけり 夕やけや 唐紅の 初氷 雪の日や 古郷人も ぶあしらひ 湯に入て 我身となるや 年の暮 夜の雪 だまつて通る 人もあり<